ERP導入の成功のカギは「システム化構想」

ERP導入の成功のカギは「システム化構想」

ERPとは"Enterprise Resource Planning"の略称で、日本語では統合基幹業務システムという意味で使われています。企業の経営資源となるヒト・モノ・カネ・情報といったデータを統合管理でき、全体最適化が図れるシステムの総称です。

販売管理、在庫管理、会計といった業務システムが一つにまとまったシステムだと思っていただくとイメージがつきやすいと思います。

現在では、複数のERPパッケージが販売されており、様々なERPベンダーが導入を行っております。ERP導入はメリットが多い反面、導入プロジェクトが大規模になりがちで失敗した場合には大きなリスクが伴います。

本コラムではERP導入で失敗しないポイントや、成功のための秘訣をご紹介します。


システム化構想とは

システム化構想とは

「企業が達成したい目標(=目指すべきゴール)を定め、ERP導入の目的と課題を整理し、対策方針を全社の共通認識とする」ことです。

システム化構想では、企業全体での認識の齟齬をなくし、ユーザー企業内とERPベンダーとで共通認識を持ち、企業全体でERP導入プロジェクトに取り組むことが大切です。

本記事では、システム化構想について深く掘り下げていきますが、まずは、システム化構想が上手くできていないが故に発生してしまうERPの失敗例を紹介いたします。


ERP導入における失敗例ERPの導入を検討する際には新システムに大きな期待感を持ってしまうと思います。それは間違いではないのですが、大きな投資であるがゆえに失敗したときのインパクトも大きくなってしまうリスクが潜んでいます。まずはERP導入における陥りがちな失敗ポイントを記載いたします。


POINT01要件定義工程で何もかも検討しようとし収拾がつかなくなるERPに限らず、「要件定義」はシステム導入において最も重要な工程と認識されています。たしかに、ユーザーの細かな個別要求を実現するための大切なプロセスであることは間違いありません。

しかし、要件定義工程は大胆な業務改革や組織の仕組み変革、斬新なアイデアを考えだす工程ではないため、もし、要件定義でそのレベルの議論をしてしまうと収拾がつかなくなり、結果、ERP導入をして"何がしたいのか"が分からないままプロジェクトを進めてしまい、要件定義工程も含めたERP導入プロジェクト全体の肥大化(コスト増加・スケジュール延長)を招いてしまうことになります。

まず考えるべきは、要件定義を開始する前に、ERP導入における目的(目指すべきゴール)を定義することが重要です。


POINT02経営層と現場間にギャップがあるERP導入プロジェクトでよく発生するトラブルは、経営層と現場間でのギャップ(認識の相違)です。

経営層は経営目標実現のためのIT施策としてERP導入を考えていますが、現場ユーザーは現行システムの使いづらさの解消、個別業務の効率化や自動化等に焦点を当てていたりするため、会社全体で方向性が定まっておらず、共通の認識を持てていない為にトラブルが起こってしまいます。

経営層が思う理想像では現場業務が回らず、現場が思う理想像では経営視点が欠けており経営目標が達成できなかったり、会社全体で見ると非効率になったりといった事態に陥ってしまいます。

ERPを導入する際には、経営層と現場、更に現場間(部署間)も含め、ギャップを埋めるために会社全体で共通の認識を持つことが必要不可欠です。


POINT03決定権のあるプロジェクトオーナー(責任者)の不在ERP導入時のユーザー側プロジェクト体制について、情報システム部門の部課長クラスや役員クラスがプロジェクトオーナーの場合、名ばかりでプロジェクト運営に関わらない場合もあります。

そのような決定権のあるオーナーが不在のプロジェクトの場合、各部署の力関係に影響され、特定部署の意見が強く反映されてしまったり、立場が弱い部署の業務負荷が増えてしまったり、立場が弱く現場からの意見を経営層に伝えられず現場側が使えないシステムになってしまったりと、全社的にERP導入のメリットを享受できないという事態を招いてしまいます。

現場からの様々な意見を吸い上げ経営層に伝えることができ、時には会社全体のために現場を納得させられるような決定権のある立場のプロジェクトオーナーが旗振り役をする必要があります。


POINT04極端な短納期、低コストスケジュールが短すぎたり予算が少なすぎたりすると目的が達成できず、中途半端な状態で本稼働を迎えることとなります。

スケジュールが短すぎる場合、スケジュールを守るためにERPベンダーに無理を強いてしまうことになり、途中工程は上手くいっているように見えても、後半の工程に問題を先送りにしてしまい、本稼働前になっていきなり稼働延期や追加コストが発生するという事態にもなりかねません。

逆にスケジュールが長く予算が多すぎても、当初掲げた方針が薄れたり、目的以上に過剰な要求が発生するためにシステムが肥大化してしまう恐れもあります。

適正な価格や予算を確保するために、早い段階で様々なERPベンダーから価格やスケジュールの情報をやり取りし、余裕を持ったスケジュールを策定しましょう。

このようにERP導入は、大規模なプロジェクトであるがゆえに大きな失敗となるリスクが潜んでいます。
上述したような失敗はあくまで一例ですが、よく耳にする失敗例です。

このような失敗をしないようにするためのポイントを紹介いたします。


正しいERP導入手順を理解することERP導入を成功させるにあたり、先ずは、「正しいERPの導入手順を理解すること」が重要です。ERP導入手順で重要なことは、ERP導入プロジェクトを要件定義から開始をするのではなく、要件定義の前に、目的や課題の整理、現状業務の把握、経営層と現場間の認識合わせ等、あらかじめシステム化構想の段階で決めておく必要があるということです。

システム化構想をおざなりにしてしまうと、ERP導入ベンダーから提案書を受け取り、各製品の比較・検討を行い、導入を進めるだけになってしまい、前述したような失敗をする可能性が非常に高くなります。

正しく、ERP導入の手順を理解した上で、自社(ユーザー企業)の経営層や各現場部門が実施すべきタスクや決めておくべきことを理解し洗い出すことと、それらを正確にERPベンダーへ伝えることで成功へ一歩近づくことが可能です。

そのためには、ERP導入プロジェクトの要件定義工程の前段となる、"システム化構想"を実施する必要があります。


ERP導入の手順(例)
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システム化構想はユーザーが主体となって行うシステム化構想は、ユーザーが主体となって行うことが理想です。難しい場合は、コンサルやERPベンダーに支援を依頼することも可能です。但し、システム化構想を行わないことや、ベンダーに丸投げしてしまうことはお勧めしません。また、間違ってはいけないのは、"システム"をデザインするのではなく、"ビジネス"をデザインするということです。

将来の経営目標と現状との間におけるギャップ(課題)を洗い出し、経営戦略に沿った課題対策方針や、要求事項を決めていく必要があります。

何も決めないまま要件定義を開始するのではなく、システム化構想の工程でERPを導入する際に重要な全体最適化の観点で、経営層と各現場の課題、それに対する対策方針、要求事項を全て洗い出し、企業全体で方針を決定し、全社の共通認識にすることができます。

方針が明確になることによりシステム構築の計画立案と最終ゴールが決定し、計画に沿ったプロジェクト運営が可能となります。


システム化構想で決めるべき内容システム化構想で決めるべき内容は以下になります。

ERP導入の目的や狙いの決定

企業が達成したい目標(=目指すべきゴール)を定め、ERP導入の目的を決定する

現状の業務把握

現状の業務を理解し整理する(現在地の理解)

目的達成への課題の洗い出し

達成したい目標と現状との間にあるギャップ(=課題)を洗い出す

課題の対策方針、要求事項の整理

各課題に対し対策方針(課題解決策の方針)や、要求事項を整理する

対策方針、要求事項の優先順位付け

予算、スケジュール内で対応する範囲の決定のため課題への対策方針や要求事項の優先順位付けを行う

社内プロジェクトチームの構築

役員級のプロジェクトオーナー(責任者)、各関係業務に精通したメンバーの選定とチーム構築

スケジュール決定

ユーザー企業の体制構築時期、現行システムの保守期限、ERPを導入し効果を得たい時期等を考慮しスケジュールを決定する
最終的にはERPベンダーと調整の上、最終決定となる

予算決定

ERP導入プロジェクト期間中に確保可能な予算を決定する

システム化対象スコープ決定

対策方針、要求事項をもとに、ERP導入プロジェクトで対象となるシステム化スコープを決定する
最終的にはERPベンダーからの提案をもとに調整し、最終決定を行う

ERP製品、ERPベンダー選定

ユーザー企業(自社)の業種や取扱製品の実績がある、ERP製品やベンダーを調査
問い合わせや打ち合わせを行い提案を貰うための材料(上記で決めた内容)を提供し、提案およびプレゼンをしてもらう

上記の中でも特に重要であり、上述した失敗をしないために意識すべきポイントを細かく説明します。


POINT01ERP導入の目的や狙いの決定システム化構想で最初にすべきことは、導入の目的を明確にすること です。

システム化構想でERP導入の目的や、導入後にどのような成果を獲得したいのかを企業の経営戦略も交えて検討し、明確にする必要があります。目的によって、選択するERPパッケージの製品が異なります。

ERPは企業の経営資源の一元管理が可能で全体最適化が図れるシステムです。そのため、導入の目的は"全社的に"メリットがある必要があります。業務ごとに個別システムであることに対して、ERPは企業全体の情報(データ)や状態がリアルタイムで把握でき、システム間連携が不要となるため情報の精度が高くなります。

システム化構想にて、経営効率や経営資源の最適化を目的として作られたシステムという観点を持ちながら、まずは自社がどのような目的でERPを導入するかを検討しましょう。

システム化構想で目的が決定すれば、自ずとやるべき内容やシステム化する範囲も決まり、失敗例で記載したような要件定義が収拾つかなくなるような事態は避けることができ、スムーズにプロジェクトを開始することが出来るようになります。


POINT02社内プロジェクトチームの構築ERPの導入は、企業の根幹となるシステムを導入する最重要プロジェクトになるため、ERPベンダーだけでなく、ユーザー企業も導入に必要な体制を構築することがとても大切です。

まず、ERP導入プロジェクトは企業全体の判断を行う必要があるためプロジェクトオーナー(責任者)には役員級のアサインが必要です。

システム化構想で決めた導入の目的に沿った方針を各部署に説明、納得させることのできる立場で且つ、各部署から発生した取り入れるべき意見を経営層に正しく伝えることができる力を持ったプロジェクトオーナーのアサインが必要不可欠です。

また、プロジェクトの主要メンバーについては、情報システム部・営業部・経理部・人事部・工場などの各部署からメンバーを選出する必要がありますが、その際には各部署の業務と将来の目的を正確に理解できるメンバーである必要があります。

また決まった方針を自部門に正しく伝えることができ、且つ自部門の課題や要求を正しくヒアリングしプロジェクトメンバーへ意見できるメンバーをプロジェクトメンバーとしてアサインするべきです。

体制の仕組みとして、各工程で決まった方針や内容を正確に全社へ共有可能な人材をアサインすることが重要です。

経営層と現場部署、各部署間、部署内、いずれも情報に隔たりが無く、全社共通の認識とできる体制を構築することで、特定部署の意見を強く反映させてしまったり、全社的にメリットがなくなるといった事態を防ぐことが可能です。


POINT03スケジュール決定/予算決定ERP導入について、漠然と長い期間と高いコストが必要とイメージされるユーザー企業が多いと思います。

また、どのぐらいの期間と予算が必要かはユーザー企業の要求内容によって異なるため簡単に把握できるものではないものです。

システム化構想で決定した目的や対策方針をERPベンダーへ正確に伝え、概算費用を算出し、要求の追加を見据えて少し余裕を持った予算を確保しましょう。

システム化構想が出来ていると、ユーザー企業がしたいことが明確になっているということですので、ERPベンダーが提示する費用の精度が高くなり、プロジェクトが開始してからスケジュール延期や、追加コストが発生する事態を防ぐことが可能です。


POINT04ERP製品、ERPベンダー選定課題の対策方針や要求事項を洗い出しながら、まずはどのようなERPパッケージで実現できそうかERPベンダーのホームページやERP製品紹介ページから情報収集をしましょう。

ERP製品と、ERPベンダーの両方を選定する必要があり、同じERP製品であっても複数のERPベンダーがあるため導入の進め方やユーザー企業とのコミュニケーション・役割分担などに違いがあります。

また、特定業種に強いベンダーや、導入実績の豊富さ、ユーザー企業との距離感などもベンダーにより異なってきます。一概にどのようなERPベンダーが良いとは言い切れませんが、最終的には自社にマッチするかどうか、重要なプロジェクトを一緒に進めたいと思えるかどうかという観点で慎重に選定を行いましょう。

例えば、導入実績が豊富で有名な大手ベンダーであっても、大手であるがゆえに多くのユーザー企業を抱えている為、1プロジェクト当たりの優先度が下がってしまうケースもあり、どのような導入PM(プロジェクトマネージャー)、SE(システムエンジニア)をアサインするかは分かりません。

逆に導入実績が大手ベンダーほどは多くない中小ERPベンダーの方が、重要プロジェクトと捉えてもらえる確率が上がり、主力メンバーをアサインしてもらえることもあります。

提案時に、どのようなメンバーをプロジェクトにアサインするかを確認したり、プロジェクトにアサインされるPM(プロジェクトマネージャー)からデモやプレゼンを受けたりすることで、今後同じ目標を持ちプロジェクトを遂行するERPベンダーのメンバーも含めて選定することをおすすめいたします。


最後にこのコラムでは、ERP導入を成功させるための重要ポイントをご紹介いたしました。

ERPは、自社にマッチするかどうかというポイントで製品を選択することが重要です。

また、全てをERP導入ベンダーに任せてしまうのではなく、自社の基幹となる重要なシステムですので、ベンダーと一緒に自社にとって最適なシステムを導入するためにお互い歩み寄り協力しながらプロジェクト運営を行うことが必要不可欠です。

今は、AIやDXなどが取り上げられがちですが、企業の根幹である基幹システムが整っていないとせっかく最先端の技術や新たな取り組みを行っても上手く活用できないという状況に陥ってしまいますので、まずは本コラムをきっかけにERP導入を検討頂ければ幸いです。

日本インフォメーション株式会社では、ERPベンダー選定前の初期プロセスからのご支援に注力しております。

単純な発注元、発注先の関係ではなく、お客様の掲げる目標の実現を共に目指すパートナーとしてご提案を行っておりますのでお気軽にお問合せください。

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